ベイルート市のキリスト教徒が多く住んでいるアシュラフィーエ地区。
とあるギリシャ正教会の前に出来たネットカフェ「スーマ・ネット」で女の子がチャットを楽しんでいます。文字は左から打っているので,どうやらアラビア文字をラテン文字で転写して入力しているようです。
ところが,よく見てみると,
7とか6とか9といったアラビア数字が転写文字の中に紛れ込んでいます。
これって一体何なのでしょうか...
チャットを楽しむ少女 |
「スーマ・ネット」 |
本来アラビア文字は,文語の「正則アラビア語」(フスハー)を書くために用いられてきました。一方,口語に相当する各地の「アラビア語方言」(アンミー ヤ)はそもそも記述される対象ではなかったために,アラビア文字はこの「アラビア語変種」を表す手段ではありませんでした。しかし,現代ではこのような, フスハー=文語,アンミーヤ=口語,という言語変種と使用域との対応が崩れつつあり,アンミーヤも記述対象とされるに至っています。但し,アンミーヤをど のような文字で,またどのような原則に基づいて記述するかという点については未だに定まっていません。インターネット上の表記はこの混沌とした状況をその まま反映しているようで,様々な文字によって書かれた多様なアラビア語変種がネット上を飛び交っています。
事実,オンライン・チャットや電子メール,それに個人サイトやBBSへの書き込みの中には,アラビア文字やラテン文字で書かれた様々なアラビア語方言の表 記法が見られます。特にラテン文字で書かれた場合,音価の対応がないためラテン文字に置換しにくい幾つかのアラビア文字に対しては,「形状の似た数字」を 充てる方式が広く使われており,興味深い現象となっています。
次の表は,それらの代用数字の幾つかですが,他にも変種があるそうです。因みに,あるエジプト人学生によるとチャットや電子メールではフスハーは全く使われず,用いる文字の80%が代用数字を混ぜたラテン文字,15%が「英語」,そしてアラビア文字は5%ということです。
例えば,「marhaba Ahmad」(こんにちは アハマッド)は, mar7aba 2a7med とか,「aayiz ashuufak」(会いたいね?)は,3ayez 2ashofak というように書かれるそうです。
アラビア文字 | 文字の名称 | 代用する数字 |
---|---|---|
ء | hamzah | 2 |
ع | `ain | 3 |
غ | ghayn | '3 または 3' |
ح | Haa' | 7 |
خ | khaa' | '7 または 7' さらには 5 |
ط | Taa' | 6 |
ظ | Zaa' | '6 または 6' |
ص | Saad | 9 |
ض | Daad | '9 または 9' |
ق | qaaf | 8 |